折れない心と偉大なる母
先日、仕事のトラブルで頭を抱えてテンパっているちょうどその時に珍しく元気のない声で母から電話があった。新型コロナウイルスの影響で仕事がうまくいかないし、体調も良くないとのこと。
ところが僕の方はそんな話しを聞いている時間の余裕も、心の余裕も無いありさまで、うわの空で「そうか、そうか」と話しを聞き流し電話を切った。
今になってその時の事を凄く後悔している。どうして頭を切り替えて母の話しをちゃんと聞いてあげる事が出来なかったのか?!経営者としても一人の人間としてもまだまだである。
齢78にもなる母は未だに第一線で働いている。そんな歳でどうしてそこまで頑張れるのか?本当に大した人だとつくづく実感するが、聞くと住宅ローンが完済するまでは何が何でも仕事を続けるという。そんな母の話しをちゃんと聞いてあげる事が出来なかった自分が本当に情けなく思う。
思い返すと母はいつも働いていた。ママチャリに幼かった僕と弟を前と後ろに乗せて街を駆け回ってヤクルトを売っていた頃が懐かしい。ぼくが中学生になる頃には売るモノが飲むヤクルトから化粧品のヤクルトに代わっていたらしくある時、学校から帰ると僕を目の前に座らせて突然、ぼくに化粧品の説明を始めたのである。そしてひとしきり説明を終えると「言っている意味を理解できた?良さが伝わった?」と真剣な顔で聞いてくる。なんと中学生の男の子を相手にセールスのロープレを行っていたのだ。散々聞かされたおかげでヒアルロン酸やらコラーゲンやらの単語は今でもよく覚えている。ニキビに悩まされていた自分にとってもまんざら興味が無いワケでもなかったので嫌がらずにおとなしく聴いていた。
ある時はセールスレディーを集めた全国大会での表彰式でスピーチする原稿を読み上げてぼくにダメ出しをして欲しいと言い出す始末である。年に一回の事ではあるがそのやり取りが僕にはとても嬉しくて、そして毎年のように人前で表彰される母が何よりも誇りであった。
そんな母がいま、コロナの影響で営業に出かける事が出来ないと嘆いている。このままだと完済まで残り1年と迫る住宅ローンの返済が滞ると苦しんでいる。そんな母の話しを聞いてあげる事が出来なかった自分が恥ずかしくて、もう一度、今度こそちゃんと話しを聞いてあげようと思って先ほど電話してみた。
そしたらなんと電話口の声が先日とは打って変わってトーンが明るい。どうやら既に立ち直って、というか開き直って方々のお客様に電話をかけまくって営業していると言うのである。流石である。まったく心が折れていないし、諦めてもいない。
母の長い長い住宅ローンとの戦いも残すところあと1年。そこに訪れた未曾有のウイルス災害。でもきっと母はコロナなんかには負けないだろう。いざとなったらぼくが後ろから支えるし。
それにしても強いなぁ。やっぱりぼくはあなたには勝てない。まさに母は偉大なり。